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2024.02.18

波紋の先、光が照らす方へ | 写真家・萬壽洸樹 | ISSUE #24

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世界中のクリエーターの感性や思考を深掘りする『ISSUE』。新たなインスピレーションのきっかけに。『ISSUE #24』では、二拠点暮らしの写真家・萬壽洸樹さんのストーリーに迫ります。

宮崎出身の写真家・フォトグラファー、萬壽さんは、千葉、沖縄、熊本など様々な土地での生活を経験し、現在は岡山と沖縄を主な拠点にされています。フォトグラファーとしてポートレート撮影を手掛ける一方で、光と暮らし、音楽をテーマにした写真制作にも専念しています。その独特の世界観は、優しい輪を広げ、ゆっくりと人々の心を魅了していきます。

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©萬壽洸樹

風の如く、カメラを握ってあらゆる場所へ

大学時代に陸上競技に打ち込んでいた萬壽さんは、写真とは無縁の生活を送っていました。彼の写真への接点は、彼の走る姿を収めた両親の一眼レフカメラがあったことくらいでした。

しかし、大学3年生の時、思わぬ怪我で走ることができなくなり、その怪我がきっかけでカメラに興味を持つようになります。「怪我がなければ、今でも陸上選手だったかもしれない」と萬壽さんは話します。趣味として始めた写真撮影が徐々に彼の情熱を刺激し、大学4年生で〈Lovegraph〉を通じて、写真家としての道を進み始めました。

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©萬壽洸樹

陸上競技で成果を上げていた萬壽さんですが、走ること以外にも広い世界に目を向けるように変わりたいと内心考えていました。陸上を辞めた当時、彼の興味は陸上の枠を超え、旅行、コーヒーの淹れ方、器の選び方など、生活の様々な面へと広がっていきました。その中でも、写真との向き合い方は独特。写真を撮る時、彼は自分のありのままの姿でいることができたのです。シャッターを切る瞬間、彼の想像していたイメージが形になり、写真を通じて他人とのコミュニケーションが実現します。そのときの感動を「カメラは風のような存在で、どんな場所でも人々の日常や旅、各々のライフスタイルを捉える魅力に、夢中になりました」と振り返ります。

淡く、幻のような光に引き寄せられて

2020年5月、大学4年生だった萬壽さんはプロのカメラマンを目指し始めます。しかし、世界は新型コロナウイルスの流行に直面して後先の行方がわからない状況に陥りました。そんなとき、写真展『波紋』を後に共同で開催することになるバリスタの友人をきっかけに、岡山・児島のカフェ〈belk〉に出会います。当時〈belk〉では、コロナ休業期間を利用して、音楽家・橋本秀幸さんによる瀬戸内海を望む絶景の舞台での演奏とストリーミングを行う『belk 幻』という企画展が開催されていました。

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©萬壽洸樹

「まるで稲妻が走ったような感動を覚えます」と萬壽さんは語ります。前例のないこの出来事は、世界が絶望の中にあった時に、優しい光を放つアーティストの存在を知り、画面越しにも忘れがたいインスピレーションを与えてくれました。

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©萬壽洸樹|『波紋』を共同で開催したバリスタの友人(左)と萬壽さん(右)

忘れられない、忘れたくない衝撃的な体験、まるで幻の光のような、その美しさに引き寄せられた萬壽さんは、その後岡山を訪れ、現在の制作活動へとつながる道を歩み始めます。そして、やがて〈belk〉で橋本秀幸さんの演奏と共に写真展を開催するという奇跡にめぐり逢います。

偶然の出会いから生まれた、写真展『波紋』と写真集『波紋のその先』

2021年、橋本秀幸さんの魅力的な演奏に心を奪われ、目的もなく岡山を訪れた萬壽さんは、児島・王子が岳で朝日を眺めていると、知り合いの声に呼び止められます。声の主は、なんと〈belk maboroshi〉を萬壽さんに紹介したバリスタの友人でした。偶然の再会を果たした二人は、運命的な何かを感じ、萬壽さんはその後、岡山に移住することを決意します。同年12月、彼はこの出会いを波紋に例え、写真展『波紋』を開催する運びとなりました。この展示会は、彼らの出会いの場であった〈belk〉で行われ、音楽家の橋本秀幸さんも招くことになります。

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©萬壽洸樹|写真展『波紋』の様子

海に広がる波紋のように、写真展『波紋』は萬壽さんに新たな出会いをもたらしました。写真展に偶然に訪れたあるディレクターが「波紋のその先を見てみたい」と言葉をかけたことが、写真集『波紋のその先』の制作へと繋がります。『波紋のその先』へは写真展で演奏された橋本秀幸さんの生演奏が収録されており、奇跡的な物語が音と写真を通じて紡がれています。

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©平末健人|写真展『波紋』の様子

現在、萬壽さんの表現活動の中心は、写真家・平末健人との写真ユニット〈calm〉と音楽家・haruka nakamuraさんとの旅です。写真を通して暮らしと音楽の豊かさをテーマにした表現活動に取り組んでいます。この活動には、現実感はないものの、そこには実在感と夢のような心地よい温もりがあり、そんな世界との相互作用を続けていきたいと萬壽さんは考えています。

ピアノと写真のハーモニー、新しい試し〈hinata〉のリリース

最近、萬壽さんと音楽家・松尾咲希との音楽と写真ユニット〈hinata〉の1stシングルがリリースされ、注目を集めています。この曲は写真から着想を得たピアノ曲で、音楽と写真が融合した独特な表現を目指しています。「日向のような暖かい光を音楽と写真で表現したい」と彼は述べています。

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©萬壽洸樹|〈hinata〉の1stシングル

このアルバムは、萬壽さんの写真家としての感性をインスピレーションに音楽で表現するという試しみです。「音楽は、写真とは異なるが感情を表現する手段として波長がある。だからこそ、写真では捉えきれない感情を音楽で表現することができる」と彼は考えています。

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©萬壽洸樹|〈hinata〉の音楽家・松尾咲希さん(右)と萬壽さん(左)

光と影を愛する豊かさ

萬壽さんの穏やかさが伝わり、優しい光に照らせるような暖かみのある写真たち。それらの写真と大事にする音楽的な感性に触れると、インタビュー中、ふと、萬壽さんの想う豊かさとは何か質問をしたくなりました。

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©萬壽洸樹

最後に「豊かさとは何か?」という問いに対し、萬壽さんは「物事の光と影を理解し、それを愛することで豊かさを感じる」と述べています。彼は自己表現を通じて周囲に還元し、バランスの取れた生活を目指しています。「表現することは、自分自身との向き合いであり、その表現を通じて他人に何かを伝えられることが私にとっての豊かさ」と萬壽さんは語ります。柔軟な姿勢で、写真だけでなく、様々な表現方法に挑戦することを楽しんでいる様子が伺えます。

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©萬壽洸樹|写真ユニット〈calm〉の平末健人さん(右)と萬壽さん(左)

萬壽さんの次なる一歩が、どんな美しい光を私たちに見せてくれるのか、期待に胸を膨らませて待ちわびています

INFORMATION
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萬壽洸樹

1998年生まれ。現在は沖縄/岡山の二拠点暮らしをしている。写真展『波紋』で披露した橋本秀幸氏の即興曲『hamon』を限定収録し、写真家・萬壽洸樹が岡山で感じた気持ち、揺れ、広がりのすべてが集約された写真集『波紋のその先』を発売。
Instagram:@manju_koki
HP:https://bio.site/manju_koki

INFORMATION
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belk

暮らしに自然を、心に野を。

岡山県倉敷市児島にあるカフェ

Instagram:@belk
HP:https://belk.stores.jp/