
Cover photo by Tenzen Hiraoka
日本と海外の風景写真は単に写っている対象が異なるだけでなく、「何を見て」「どう見せるか」に対する美意識やストーリーテリングの在り方に深い違いがあります。
今回は、日本らしい繊細で詩的な表現と、海外のような力強くストレートな表現、両方の魅力を比べながら、写真をもっと深く楽しむためのヒントを探っていきます。
日本的写真表現の魅力
日本の写真家には、淡い色合いや柔らかな光、余白を生かし、儚さや情緒をすくい上げようとする美意識があります。たとえば、薄靄にけむる朝の街や、木漏れ日が踊る森の小径。こうした情景に漂うのは、風景そのもの以上に、そこに“宿る気配”や“移ろいの気分”といった目には見えないものです。

Photo by Yukihiro
シャープな描写や圧倒的な情報量よりも、「物の向こう側にある気配」や「心の揺れ」を写し取る姿勢。それは、季節ごとの小さな変化に心を留める、日本ならではの感性とつながっているともいえるでしょう。

Photo by はくらく
世界が求める風景の迫力
一方、海外のフォトコンテストやSNSで評価される風景写真は、まるで油絵のように色彩豊かで、強烈な印象を与える作品が多く見られます。大胆な構図、深いコントラスト、ドラマチックな光の演出。見る者の目を瞬時に捉え、強く感情を揺さぶることが重視されます。

Photo by Shimesaba
こうした写真は「リアルであること」以上に「視覚で語る力」を持ち、情報の洪水の中でも埋もれないインパクトを宿します。鮮明であること。強いこと。これもまた一つの「感動の表現」です。
写真家は日常を作品に変える
写真は機材や技術だけでは生まれません。重要なのは、“どのように見るか”という視点です。写真家の世界では、「誰もが見逃すような何気ない光景に、美を見出す目」が何よりの資質とされます。

Photo by sg_camera
ただシャッターを押すのではなく、「どう撮るか」を考えるだけで、作品性は格段に高まります。構想から撮影、セレクト、編集まで、そのプロセスすべてが、写真を“表現”へと昇華させる鍵です。

Photo by Ryuji Azuma
視点が変われば、同じ風景もまったく違って見えてきます。繊細さと力強さ、その両方に心を澄ませながら、写真という表現の奥深さを味わってみてはいかがでしょうか。
ただの美しさではなく、そこに宿る“意味”を見つける。自分の感情と視点を重ねてシャッターを切ることで、写真はやがて記録を超え、物語へと変わっていきます。