歌詞から考えてみる写真のコンテクスト
頭の中の記憶は時間が経ていくにつれて、曖昧なイメージに移り変わります。しかし、写真は特別な瞬間を残し、思い返させてくれます。一人ひとりの様々な物語が一枚の写真に込められているからこそ、私たちにとって「写真」という言葉、そのものがすでに一つ詩的な意味合いを持ちます。
今回は音楽の歌詞の中で、写真に関連する言葉がどのような文脈で使われているか、まとめました。
Paul Simon『Kodachrome』| 初めてカラー写真に出会った時の感動
日本語のタイトルは、〈ポール・サイモン〉の『僕のコダクローム』。 コダクロームとは、Kodakのカラーリバーサルフィルム。CMソングのようなタイトルですが、Kodak社とは特に無関係のようです。歴史上は先に登場した外式を唯一継続したリバーサルフィルムとして、1960年代当時は根強い人気があった模様。
今やフィルムはデジタルに取って代われつつあります。しかし、フィルム"コダクローム"が廃止となった2009年には「ポール・サイモンに歌われた名フィルムが退場」という見出しでニュースになるぐらいコダクロームを愛用した世代には、ノスタルジーを感じさせる何かがあるのでしょう。
歌詞からは、カラーの写真が珍しかった頃、色鮮やかな写真に出会えた少年の感動が伝わります。
Kodachrome,
コダクローム、
they give us those nice bright colors
それは僕たちに素敵な輝く色をもたらした
Gives those greens of summers
夏の鮮やかな緑も再現してくれる
They make you think that all the world's a sunny day
世界中が晴れているって思わせてくれる
Well I've got a, a Nikon camera
そうなんだ! 僕はニコンのカメラを持っている
I love to take photographs
それで写真を撮るのが大好きなんだ
Ed Sheeran『Photograph』| 愛と思い出の比喩としての写真
〈Ed Sheeran〉の赤ん坊の頃から24歳までの、自身の半生を振り返ったミニ・ドキュメンタリー形式のミュージックビデオとしても有名な曲『Photograph』。曲へのインスピレーションは、〈Ed Sheeran〉自身の遠距離恋愛の経験から得たそうです。二人が写真をもって変わらぬ愛の気持ちと思い出を記憶しようというメッセージを込めている名曲。
We keep this love in a photograph
僕たちはこの愛を1枚の写真にこめる
We made these memories for ourselves
思い出を自分たちの中に残す
Where our eyes are never closing
瞳は閉じることがないし
Hearts are never broken
心が壊れることはない
Times forever frozen still
時間はじっと永遠に止まったまま
『Photograph』の歌詞では写真は愛と思い出の象徴として使用され、感情的なつながりを強調させます。写真への比喩は、歌の中で深い感情と切なさを表現するのに不可欠な要素でしょう。
余談ですが、別れた後、女性は写真を消す傾向に、男性はそのまま残す場合が多いようです。
星野源『フィルム』| 星野源さんの写真家的視点の表れ
多彩なミュージシャンとして著名な〈星野源〉。 彼の2作目のシングル『フィルム』は、このような歌詞から始まります。
笑顔のようで 色々あるなこの世は
綺麗な景色 どこまでほんとか
フィルムのような 瞳の奥で僕らは
なくしたものを どこまで観ようか
綺麗な景色の中で人々が笑顔を見せていても、その裏には様々な感情が隠されている。表と裏、どの部分を切り取り現実として捉えるかは、それぞれの瞳の奥にあるフィルムに残されている。歌の始まりと同時に表れる〈星野源〉の写真家的視点。それは、目に見えるものを通して、目に見えない何かを想像させてくる言葉選びです。
写真という言葉が与えるインスピレ―ション
時には時代の象徴として、愛や思い出のシンボルとして、視点の表れとしてなど、写真は多くの要素を含む複雑なテーマ。しかし、同時に写真は私たちの生活に根付き、多くの人に共感を得られるシンプルな言葉でもあります。言葉以上の意味を持つ写真だからこそ、アーティストたちの創作へのインスピレーションを与えているでしょう。