奈良は、古くから百人一首に詠まれた情景が今も息づく魅力的な地です。今回の旅では、そんな奈良の中でも特に美しいスポットを巡り、歌人たちが愛した風景をカメラに収めてみましょう。
ここで紹介するスポットはそれぞれが異なる情景の美しさを持ち、写真に収めることで新たな視点が広がるはずです。百人一首の世界と現代の風景が重なり合う瞬間を、ぜひ一枚の写真に残してみてください。
三笠山(若草山)

Photo by eriko
歌番号7
天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも
阿倍仲麻呂
遣唐使として派遣された阿倍仲麻呂が、唐の玄宗皇帝に気に入られたため帰国を許されず、30年の唐での生活を経て帰国を許された際の宴で詠んだ句です。見上げた空にある月は、出発時に見た、春日大社のある三笠山に昇った月と同じで、ようやく帰れることへの感慨深い気持ちが詠まれています。
現在はたくさんの鹿と触れ合うことができる場所なので、鹿を被写体に、山の輪郭や山からの眺めを捉える写真がおすすめです。
吉野

Photo by ゆらぎ
歌番号94
み吉野の 山の秋風 さ夜ふけて ふるさと寒く 心打つなり
参議雅経
かつて、吉野の地には古都の離宮があったものの、今は衣を打つ音だけが聞こえてくるという物寂しい情景を詠んだ句です。
吉野は、春は桜、秋は紅葉の名所として有名ですが、夏の緑や冬の雪に覆われた山々など、季節を問わず自然の優雅な風景を感じられる、写真家にとってぜひ訪れたい観光地です。南北朝時代には南朝が置かれ、その時代の風情を今にも残しています。
三室山・竜田川

Photo by 乙葉(OTOWA)
歌番号69
あらし吹く 三室の山の もみぢ葉は 竜田の川の 錦なりけり
能因法師
この歌は文字通り、三室山の紅葉が風に吹かれ、麓を流れる竜田川を流れる様子を、竜田川が絢爛な錦をまとっているようだとたとえたものです。
竜田川は、在原業平の「ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」の歌にも詠まれており、関西きっての紅葉の名所。水面に映る紅葉や、川岸の木々の影を画面に取り入れることで、百人一首の風雅を感じる一枚に仕上がるでしょう。
初瀬(長谷寺)

Photo by だいひょう
歌番号74
うかりける 人を初瀬の 山おろしよ 激しかれとは 祈らぬものよ
源俊頼朝臣
想い人に冷たい対応ばかりされ恋が発展せず、長谷寺(=初瀬)の観音様に恋仲になりたいと祈るも、さらに冷たくなるばかりの相手の態度を嘆いた句です。「山おろし」は山から吹く風のことを指し、初瀬の山から吹く冷たい北風が容易に想像できます。
長谷寺もまた紅葉の名所。夕暮れ時の撮影では、寺の屋根越しに広がる紅葉や周囲の木々のシルエットを活かすと、静寂が漂う情景を捉えられるでしょう。
古の歌人たちが感じた寂寥の美を、みなさんの写真で表現してみてはいかがでしょうか。




