『Read Your Photography』では、ただ見るだけでは出会えない、写真の裏側にある“物語”に目を向けます。cizucuが主催する〈photo poster project〉や、SNSを通じて集まった作品とともに、その一枚が生まれた背景やその人だけの時間を、cizucuマガジンが12言語に翻訳し、世界中へ届けます。
物語を心にしまっておくのもひとつの選択。けれど、その想いは誰かの心に静かに触れ、まだ見ぬ感動を生むかもしれません。
今回ご紹介するのは、世界中から集まった3名の作品です。
それでは、唯一無二の物語を、そっと覗いてみましょう。
林大哀’s Story

Photo by 林大哀
林大哀
📚 01
2007年、大学生だった頃。徹夜で友人たちと過ごした翌日の午後、目を覚ますと、愛猫の小葵が窓辺に座っていました。
けれどその日の小葵は、いつものように外を眺めていたわけではありません。じっとクローゼットを見つめている。その何気ない姿に、なぜか心が引かれ、思わずシャッターを切りました。
撮り終えたすぐあと、彼女はクローゼットの上へ飛び乗っていきました。
特別な出来事があったわけではありません。あの頃の自分にとっては、ただの普通の午後でした。それでも写真を整理するたびに、この一枚だけはずっと手元に残っていました。
午後まで眠り、友人たちとただ遊び、仕事や明日の予定に追われることもなかった大学生活の時間。その自由で、取り留めのない日々の空気まで、この写真の中に残っているように感じます。
今になって、その午後がどれほど大切だったのかを教えてくれるのです。
cizucu編集部
窓辺に座る猫のシルエット。そこに写っているのは、何か特別な出来事ではなく、日常の中にふと訪れた静かな時間です。けれど、時間が経ってから見返すことで、その一枚はただの記録ではなくなります。午後まで眠り、友人と過ごし、明日のことを深く考えずにいられた日々。写真は、忘れていたはずの空気や感情までも、そっと連れ戻してくれる。そんな不思議な写真の力を感じさせてくれる作品です。
Shih Hsun Chao’s Story

Photo by Shih Hsun Chao
Shih Hsun Chao
📷 Canon EOS R1
📚 02
台北で、少し変わった風景を撮りたい。最初は、そんな気持ちで街を歩いていました。
撮影を続けるうちに、目に留まるものが少しずつ変わっていきました。人から離れてぽつんと存在しているもの。街の中で形を変え、いつか消えてしまいそうなもの。そうした風景に、自然と惹かれるようになっていったのです。
この写真を撮った新店・碧潭風景区では、台風が近づくたびに、スワンボートをクレーンで吊り上げて避難させます。
僕は幼い頃からこの場所で育ち、賑わっていた時期も、少しずつ変わっていく姿も見てきました。だからこそ、空中に吊られたスワンボートが、本来いるべき水面から切り離されてしまった存在のように見えました。
本当は、ただの人工物です。それでもその姿は、どこか生き物のようで、静かに何かを訴えているように感じました。
cizucu編集部
水面ではなく、空中に吊り上げられたスワンボート。その少し不思議な光景には、日常から切り離されたものだけが持つ、静かな違和感があります。この場所はShih Hsun Chaoさんにとって、幼い頃から見続けてきた風景。だからこそ、台風に備えて避難するボートの姿は、単なる作業の一場面ではなく、街の変化や記憶と重なって見えたのかもしれません。本来あるべき場所を離れた人工物が、まるで生き物のように見えてくる。見慣れた風景の中にある、小さな孤独をすくい上げた一枚です。
neo_gg’s Story

Photo by neo_gg
neo_gg
📷 Panasonic LUMIX G8
📚 03
この写真は、台湾の結婚式にある「擲扇」という風習を写したものです。
新婦が出発時に扇子を窓から投げ、過去を手放し、これからは優しい妻になることを意味します。
新郎新婦は長年の友人で、この盛大な結婚式も、ある意味では長輩たちのためのもの。
友人たちは仕事の後に準備を重ね、半年以上を費やしていました。
「伴郎」として参加した僕は、怒りや嫌悪感を抱きながらも、友人のために何かしたいという気持ちで、この結婚式を自分勝手な視点から記録しました。
ただ、僕は結婚式という「儀式」が苦手です。それでも、その中には二人の絆や、輝くベール、忙しさの中でも美しくあろうとする新婦など、美しいものも確かにありました。
苦手なものも、好きなものも、すべて記録したかった。とても自分勝手で感情的な写真ですが、これが僕にできる唯一のことでした。この写真は、その中でもっとも皮肉的で、感情が強く、それでいて僕にとって一番温かい一枚。二人も気に入ってくれたら嬉しいです。
cizucu編集部
結婚式という祝福の場にありながら、この写真にはどこか緊張感があります。窓から差し出された手、指輪、握られた扇子。その一瞬には、儀式の美しさだけではなく、作者自身の複雑な感情も写し込まれているようです。好きになれないものを、ただ遠ざけるのではなく、そこにある美しさも、違和感も、すべて見つめようとする。その視線が、この写真に強い温度を与えています。
最後に
いかがだったでしょうか。
ビジュアルだけでは語りきれない魅力に、私たちは目を向けていきたい。『Read Your Photography』は、写真の奥にある想いや感情に目を向け、ひとつの物語として受け取るための企画です。
写っているのは、ほんの一瞬です。けれどその奥には、確かに流れ続けてきた時間と、言葉にならなかった感情があります。
どうか写真を読むように、そして頁をめくるように、味わってみてください。
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