写真を愛するクリエイターたちが語る、カメラとそのストーリー。「愛機」という存在には、それぞれの人生観や価値観が映し出されます。今回の連載では、〈SIGMA DP2 Merrill〉を愛用するumai_gohanさんが登場。
デジタルカメラの高性能化が進み、誰でも快適に撮影できる時代。その一方で、あえて“不便さ”を愛する写真家たちも存在します。独特な操作感やクセの強い描写、それでもなお持ち出したくなる魅力。今回は、FOVEONセンサーを搭載した異端のコンパクトデジタルカメラ〈SIGMA DP2 Merrill〉について迫ります。
〈SIGMA DP2 Merrill〉基本情報
〈SIGMA DP2 Merrill〉は、SIGMAが2012年に発売したレンズ一体型コンパクトデジタルカメラです。APS-CサイズのFOVEON X3 Merrillセンサーを搭載し、一般的なベイヤーセンサーとは異なる三層構造によって、圧倒的な解像感と立体感のある描写を実現しています。
「これ、本当にコンデジ?」
まず〈SIGMA DP2 Merrill〉を手にした多くの人が思うのは、「これ、本当にコンデジ?」という違和感だと思います。
とにかく大きい。小柄な人なら片手で扱うのも少し気を使うサイズ感です。自分も最初は少し持ちにくかったので、L型ブラケットを後付けしてホールド性を上げました。

Photo by umai_gohan
書き込み速度も速いとは言えないし、現像時のファイル変換にもクセがある。かなり特殊な部類に入るカメラです。でも、その不便さ込みで惹かれてしまうんです。

Photo by umai_gohan
搭載されているFOVEONセンサーも、新型の発表は長らくなく、今は中古で探すしかありません。だからこそ、現代の快適なカメラに慣れた人が、さらに刺激を求めた時にぜひ触ってみてほしい一台だと思います。
廃墟とFOVEON
〈SIGMA DP2 Merrill〉はAPS-Cセンサーに28mm相当の画角を搭載しています。今回はその画角で廃墟を歩いてみました。
起動は決して速くありません。でも、その一呼吸が「撮るぞ」と気持ちを整えてくれる感覚があります。

Photo by umai_gohan
普段ストリートで使う時は、撮りたい瞬間を逃すことなんて日常茶飯事です。でも、今回の被写体は廃墟。そこにある景色は、ずっと誰かが来るのを待ってくれていました。

Photo by umai_gohan
人がいなくなって、どれくらい経ったのだろう。
剥がれた壁紙、色褪せた掲示物、窓際に積もる埃。その空間を肉眼で見るよりも、FOVEONセンサーが切り取った一枚のほうが、時に繊細で、時に残酷でした。
空気を閉じ込める
このカメラでモノクロにすると、空気の輪郭が一気に立ち上がる感覚があります。
ただ景色を記録しているだけじゃない。シャッターを切るたび、その場に流れていた空気ごと四角の中へ閉じ込めている感覚になるんです。

Photo by umai_gohan
それは撮影というより、“記憶の保存”に近いのかもしれません。〈SIGMA DP2 Merrill〉は、写り自体は驚くほど正直です。でも、そこへ辿り着くまでのプロセスは全然素直じゃない。
だからこそ、このカメラには強く惹かれるんだと思います。

Photo by umai_gohan

umai_gohan
廃墟・ストリート・動物園などを中心に撮影。 単焦点レンズを軸に、引き算の構図とその瞬間の判断で“時間の密度”を切り取ることを重視している。 使用機材は偏りがあり、意図に特化した構成。
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