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親密さは、なぜ社会を動かすのか、Nan Goldinの写真に写る拡大家族 | Knowledge #496

By cizucu · 2026年7月9日

親密さは、なぜ社会を動かすのか、Nan Goldinの写真に写る拡大家族 | Knowledge #496

Cover photo by danceforallthepain

親密さは、なぜ社会を動かすのか、Nan Goldinの写真に写る拡大家族 | Knowledge #496

Cover photo by danceforallthepain

写真には、ただ美しいものを残すだけではない力があります。

誰かと過ごした時間。言葉にできなかった感情。もう会えない人の気配。そして、家族という言葉だけでは説明できない、大切な関係。〈Nan Goldin(ナン・ゴールディン)〉の写真を見ていると、親密さへの共感や連帯が、ときに社会を動かす力を持つことを考えさせられます。

2023年、〈Nan Goldin〉は『ArtReview Power 100』で、最も影響力のあるアーティストとして1位に選ばれました。その背景には、オピオイド危機をめぐる活動団体〈P.A.I.N(Prescription Addiction Intervention Now)〉を通じた社会的な活動があります。〈P.A.I.N〉は、〈Purdue Pharma〉、〈Sackler家〉、そして彼らから寄付を受けてきた美術館や文化機関の関係を問い直してきました。

けれど、〈Goldin〉が社会を動かした理由は、声を上げたからだけではありません。彼女はずっと、社会のなかで見過ごされやすい人たちを写してきました。そこに写っているのは、特別な誰かではなく、誰かと一緒に生きようとする人たちの姿です。

Power 100

写真に写る関係、もうひとつの拡大家族

〈Goldin〉の写真には、親密な空気があります。部屋の中の光、ベッドの上の身体、鏡の前の視線、抱きしめる手、泣いたあとの顔。そこにあるのは、きれいに整えられた世界ではなく、痛みや不安、傷つきやすさを含んだ、ありのままの時間です。

〈Nan Goldin(ナン・ゴールディン)〉、〈Mark Morrisroe(マーク・モリズロー)〉、〈Philip-Lorca diCorcia(フィリップ=ロルカ・ディコルシア)〉、〈David Armstrong(デヴィッド・アームストロング)〉らは「ボストン・スクール」と呼ばれます。

ボストン・スクールとは、1970年代半ばから80年代初頭にかけて、ボストンの美術大学や学校を卒業した写真家たちが活躍し始めたことから名づけられました。

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Photo by danceforallthepain

彼らの写真には、外から観察する距離感ではなく、同じ時間を過ごした人だけが持てる近さがあります。写っているのは、被写体である前に、友人であり、仲間であり、生活をともにする存在でした。
それは、血縁や結婚によって決まる家族とは少し違います。でも、たしかに家族のようなもの。そこには、撮ること、撮られることを許す関係性があります。

親密な写真が、社会につながる

一見すると、〈Goldin〉の写真はとても個人的です。しかし、個人的なことは、社会と切り離されているわけではありません。

誰と一緒にいていいのか。誰を愛していいのか。誰を家族と呼んでいいのか。誰の痛みが見過ごされてしまうのか。こうした問いは、すべて社会につながっています。

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Photo by 해적왕

〈Goldin〉が写してきた人々の多くは、社会の中心からは見えにくい場所にいました。彼女は、その人たちを「遠くの誰か」としてではなく、同じ時間を生きる、大切な人として撮りました。
だからこそ、その親密さは閉じた世界ではなく、社会が見ようとしてこなかった命を、静かに見せてくれるものになります。

P.A.I.Nの活動は、スナップ写真の親密さから生まれている

彼女の写真に写っているのは「誰かの姿」だけではありません。その人を見つめ、覚えていようとする関係そのものです。〈P.A.I.N〉の活動も、その延長にあるように見えます。

オピオイド危機は、数字やニュースとして語られると、遠い社会問題に見えてしまうことがあります。けれど、その一人ひとりには生活があり、友人がいて、家族がいて、誰かと過ごした時間があります。

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Photo by Léa Liu

スナップ写真が、目の前の人を「社会の中のひとつの事例」ではなく、「名前のある誰か」として写すものだとすれば、〈P.A.I.N〉の活動もまた、見えなくされてきた痛みを、具体的な誰かのものとして社会に差し出す行為でした。

美術館は、美しいものや価値あるものを保存する場所です。けれど、その場所を支えるお金の背景に、依存や喪失、たくさんの死があるとしたら、それを見ないままでいいのか。〈Goldin〉の問いは、写真の中でずっと続いてきた問いと重なります。

親密な写真は、誰かの存在を記録し、社会の見方を変え、時に大きな制度を動かすことがある。Nan Goldinの評価は、その力を示しているのではないでしょうか。

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