独自の視点で写真表現を追求する人物・媒体へのインタビューを通じて、創作の原点や思想、制作プロセスを深掘りし、世界中のフォトグラファーやフォトメディアへ新たなインスピレーションを届けます。
世界最長の歴史を誇る写真専門誌〈British Journal of Photography〉。その創作の原点、そして大切にしてきた思想と視点を、今この時代に言葉としてアーカイブに残していくことは、これからの写真文化の一端を支えていくはずです。
今回は、〈British Journal of Photography〉の編集者・Diane Smythさんに「10の質問」を投げかけ、その表現がかたちになるまでのプロセスに迫ります。

@ British Journal of Photography
British Journal of Photography
British Journal of Photography(BJP)は1854年創刊の、世界で最も長く刊行が続く写真専門誌。現在は年4回の印刷版に加え、WebサイトやSNSを通じてオンラインでも発信。写真表現の「いま」を捉えながら、過去と現在を往復する視点で作品や動向を紹介し、議論を重ねている。
Instagram:@bjp1854
Q1. British Journal of Photography(BJP)は1854年に創刊され、170年以上にわたり写真ジャーナリズムと批評のプラットフォームであり続けてきました。このように長い歴史を持つ出版物を維持し、進化させていくうえで、最も重要だと考えることは何ですか?
一見矛盾しているようですが、長い歴史を持つ媒体に携わるほど、私はむしろ「いま起きている写真表現」に深く関わりたいという気持ちが強くなります。
創刊当時、写真は新しいメディアであり、読者は新興の技術を育てながら、新しい世界の見方を形にしていました。だからこそ私たちも、制作や流通をめぐって更新され続けるテクノロジーを真正面から受け止め、それが環境や他者との関係性をどう変えていくのかを問い続けることが重要だと考えています。

@ British Journal of Photography
同時に、〈BJP〉が「過去とどう違う存在でありたいか」も常に意識しています。かつての〈BJP〉は、富裕な白人男性のコミュニティに支えられ、帝国主義の時代に形成された価値観とも無縁ではありません。
私は母親であり、2人目の女性編集長で、北アイルランド出身です。BJPがその古い時代の名残を乗り越え、より多様な物語や視点を受け入れていくことこそ、継続と進化のために欠かせないと感じています。
Q2. BJPはPortrait of Humanity、Portrait of Britain、Female in Focus、OpenWallsなど、多様なアワード/取り組みを運営しています。これらのプログラムを通して、写真コミュニティにどのような変化や機会を生み出したいと考えていますか?
まずお伝えしたいのは、これらの取り組みはすべて同僚のZoe Harrisonがディレクションしており、その仕事ぶりが本当に素晴らしいということです。そのうえで、いずれのプログラムも共通して「前向きな変化」を生み出すために設計されています。
たとえば『Female in Focus』は、さまざまな領域でなお十分に評価されていない女性 / 女性と自認するアーティストに、より多くの機会を開くことを目的としています。『OpenWalls』は、フォトフェスティバル期間中のアルルで作品を発表できる場をアーティストに提供するプロジェクトです。

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『Portrait of Britain』では、〈JCDecaux〉が保有する公共のビルボードを〈BJP〉が活用し、英国で撮影された人々のポートレート作品を掲出します。そこに立ち上がるのは、私たちが生きる刺激的な多文化コミュニティの姿そのものです。政治的レトリックが強まる時代だからこそ、『Portrait of Britain』は社会に対するポジティブな介入になり得ると感じています。
Q3. 『Ones to Watch』は、これからの活躍が期待される新進写真家を国際的なオーディエンスに紹介する重要なプラットフォームです。その選考では、どのような考え方や基準が重視されているのでしょうか。
『Ones to Watch』の作家は、世界各地の推薦者(ノミネーター)からの推薦によって選ばれます。彼らは時間とネットワークを惜しみなく注ぎ込み、いま注目すべきイメージメーカーを私たちに紹介してくれます。そこから最終的に15名を選ぶ必要があり、難しさはありますが、とても楽しいプロセスでもあります。
選考では、できるだけ多様な地域から作家を取り上げ、アプローチの幅が生まれるようにするなど、いくつかの指針を設けています。また「新進」と言っても、それは必ずしも年齢の若さを意味しません。近年は、困難な背景からキャリア形成に時間を要したインドのダリット共同体出身の作家や、子どもが自立してから制作を始められたバングラデシュの母親である作家なども紹介してきました。
そして近年、特に心を動かされているのは、ウクライナやパレスチナなど、自国の紛争に応答しながら作品を生み出す、とても若いイメージメーカーたちです。
Q4. BJPは、Bodleian Library × BJP Commissionのようなプロジェクトを含め、さまざまな機関や文化組織と協働してきました。こうしたパートナーシップは、社会や文化の中で写真が担い得る役割をどのように拡張すると考えますか?
こうしたパートナーシップは、たとえばボドリアン図書館のような機関が持つ重みや信頼性を、写真家に付与してくれます。同時に、作品やイメージをアーカイブに収蔵し、将来にわたって丁寧に保存していくことにもつながります。ブリティッシュ・カウンシルとの協働では、かつてないほど国民的アイデンティティが揺らぐ時代に、アイデンティティをめぐる議論を企画できました。写真がアイデンティティを「取り締まる」ためにも、「拡張する」ためにも用いられてきたことを検討したのです。
私たちもまた、現役のアーティストと直接つながり、同時代のエネルギーやビジョンに触れられるという点で、機関側に価値を提供できています。最終的に、イメージメーカーを含む関わる全員にとって良い結果になることを願っています。

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Q5. BJPは写真作品の出版にとどまらず、批評、ジャーナリズム、インタビュー、フォトブックレビューなどの場として長く機能してきました。写真と言語(テキスト)の関係をどのように捉えていますか?
私たちは、アーティストやキュレーターの意図を際立たせることに関心を寄せる一方で、鑑賞者が作品から受け取るものが、その意図と必ずしも一致しないこともよく理解しています。だからこそ、読者それぞれが自分自身の見方を育てられるよう、あえてこちらから強い解釈を押しつけないようにしています。
写真とテキストは、ときに似た働きをすることもあれば、まったく異なる働きをすることもあり、その差異についてよく考えます。

@ British Journal of Photography
作家であり写真家でもあるHervé Guibertの言葉に、私が好きな引用があります。2022年の〈MEP(ヨーロッパ写真美術館)〉の展覧会『Love Songs』でも取り上げられていました。
「書くとき、私はブレーキも遠慮もない。なぜなら賭けられているのは実質的に私だけだからだ。一方で写真には他者の身体が写り、親族や友人がいる。私はいつも少し不安を抱いている……。」
Q6. AI生成画像が急速に広がる中で、写真批評およびフォトジャーナリズムの観点から、BJPはどのような立場をとっていますか。また、この技術的・文化的転換に対して、雑誌としてどのように向き合っていますか?
AIは非常に大きなテーマです。たとえばドキュメンタリー写真のように、「世界との指標的(インデックス的)な結びつき」が重要になるイメージ制作にとっては、明確にネガティブな影響が生じ得ます。また、著作権や収入の保護という観点でも、アーティストに大きな影響を及ぼします。
一方で私たちは、Bharat Sikkaのように、自身の画像でAIを学習させ、生成画像の可能性と含意を探る興味深いプロジェクトも紹介してきました。さらに、技術が実際にどのように機能しているのか、そこにどのようなイデオロギーが埋め込まれているのかを理解するために、専門家へのインタビューも行っています。

@ British Journal of Photography
個人的には、写真によってすでに確立されていた「イメージ中心の世界観」への移行が、さらに加速しているように感じます。Jean Baudrillard や Guy Debordのような思想家は、そのことを以前から論じていました。
Q7. BJPはデジタルでの発信と、印刷版マガジンの双方を維持しています。現代において、印刷された写真出版物が持ち続ける意義や価値をどのように考えますか?
デジタルはスピードが速く、地理的にも金銭的にもアクセスしやすい。だからこそ、オンラインで作品を紹介できることを嬉しく思っています。一方でプリントには、より熟考されたかたちで作品を提示できること、そして長期的な保存性(寿命)が高いという強みがあります。この「長く残る」という性質は、とても興味深いものです。
海底ケーブルが切断されたり、記事が更新・削除されたりする時代に、世界の中に具体物として残り続けるものをつくることには重要性があると感じます。私たちの雑誌も、多くのアーカイブや機関に所蔵されています。未来の研究者がどう活用するかは分かりませんが、少なくとも「選択肢として残る」こと自体は良いことだと思っています。

@ British Journal of Photography
Q8. ArlesやKYOTOGRAPHIEなど、世界各地のフェスティバルや機関との密接なつながりを通して、BJPはグローバルな写真シーンを独自の視点で見ていると思います。国際的な写真シーンの変化をどのように捉えていますか。また特に注目している地域・コミュニティ・ムーブメントがあれば教えてください。
〈KYOTOGRAPHIE〉とのつながりは最近生まれたばかりで、いまからとても楽しみにしています。とりわけ私たちは、日本および世界の新進イメージメーカーを紹介する取り組みである『KG+ Select』に関わってきました。

@ British Journal of Photography
私にとって国際的なシーンで最も興味深いのは、西洋以外のアーティストが「写真とは何か / 何になり得るか」をあらためて問い直すうえで果たしている役割です。もし写真が西洋的な認識論を体現しているのだとすれば、異なる文化的・哲学的伝統を持つアーティストは(西洋的グローバリゼーションやイメージ文化の影響を受けつつも)、その技術を転用し、覆し、再利用し得るでしょう。
最近は、プロヴォークの写真家たちも、そうした文脈で捉えられるのではないかと考えています。彼らは、日本に押し付けられた「見ることのあり方」を、哲学的にも、そして非常に文字通りの意味でも、問い直していた集団だったのではないか、と。
Q9. 170年以上のアーカイブを持つ出版物として、BJPは歴史的レガシーと同時代の写真実践をどのようにつないでいますか。過去と現在の対話を生み出すために行っている取り組みやアプローチがあれば教えてください。
これまで私たちはアーカイブを十分に活用できていませんでしたが、最近は、アーティスト・コミッションのような形で、何か取り組みにつなげられないか考えています。過去の文章に立ち返ることもありますが、それはいつも新鮮で、興味深い体験です。
Sebastião Salgadoが亡くなったときには過去のインタビューを読み返し、彼自身の言葉を通して作品を語ることができました。同時に、彼のアプローチに対する当時の批判が、初めから存在していたことも改めて確認できました。
Q10. 最後に、現在のBritish Journal of Photographyとして、世界中の写真家やクリエイターに向けて伝えたいメッセージを教えてください。
写真、そしてレンズベースのメディアは、まさに現代を象徴するメディアだと思います。ヴェネツィア・ビエンナーレのような国際芸術祭だけでなく、ジャーナリズムやソーシャルメディアのイメージの流れを見ても、そのことは明らかです。
私自身、最近の『GucciCore 2027』のファッションショーで、タイムズスクエアの巨大なビルボード群が〈GUCCI〉に占拠された光景に強く惹かれました。いまだにどこか謎めいたこのメディアが、私たちの世界の見方をどう形作っているのかを理解するためにも、写真と向き合い、関与し続けることは不可欠です。
さらに、この技術がどのように機能しているのかを読み解ける視覚的リテラシーを持つ人々の存在は、これまで以上に重要になっています。多くのクリエイティブ産業と同様、写真は生計を立てること自体が難しい分野でもありますが、イメージメーカーやアーティストは、現代のグローバル社会における重要な思考者だと捉えてよいと思います。

@ British Journal of Photography
こうした光景を見ると、イメージが私たちの価値観や世界の見方をどう形作っているのか、改めて考えさせられます。だからこそ、写真と向き合い続けることが大切です。同時に、画像がどう作られ、どう広がるのかを見抜く「視覚的リテラシー」も、ますます重要になっています。
写真で生計を立てるのは簡単ではありませんが、イメージメーカーやアーティストは、現代社会を考えるうえで欠かせない存在だと思います。

